「VIPRPG紅白2022」で公開された、たんち氏による見るゲ「狂詩性ブラックサンダーR」の感想記事です。
本作はRPGツクール2003steamで作成されています。
氏の作品「子どもたちの国 -Magic Children-」「PRECIOUS -なぜショウは神に挑んだのか-」等が非常に面白かったので、本作も必ずプレイしようと決めていました。
クリア時間は約6~7時間でした。
ゲーム概要(ネタバレ無し)
猛者たちがそれぞれの想いを胸に、「天覧大会」という何でもあり(バーリトゥード)の戦場で、トーナメント形式で戦っていく作品です。
操作や選択を求められることは一切なく、文章を読むことでゲームを進めていきます。
見るゲの魅力である歩行グラフィックを駆使したアクションシーンを存分に楽しませてくれます。
主人公と言えるキャラクターはいますが、特定のキャラの視点で進むわけではなく、群像劇のような形式で描かれていきます。
氏のこれまでの作品をプレイしていればいるほど、キャラクターへの理解は深まると思います。
余裕があるのなら、繋がりが深めの「子どもたちの国」を先にプレイすることを推奨しますが、本作からプレイすることを止めるわけではありません。
(フリゲはプレイしたいと思ったときにプレイするのが一番良いと思っているため)
システム面に関しては、これまでの見るゲよりもプレイしやすくなっています。
タイトル画面からチャプターが細かく選択できるようになっているため、自力でセーブファイルを分けて管理する必要は少なくなりました。
セーブ・ロードについては、それぞれ5キー・6キーを押せば、メッセージが途切れたタイミングでファイル画面に移行することができます。
実質、ほぼいつでもセーブ・ロードが出来るようになっているので、しおりを挟むイメージで快適に読んでいくことが出来ます。
また、Shiftキーを押し続けることによるメッセージスキップ機能や、フレームレートの増減機能も備えられています。
感想(ネタバレ無し)
最後まで、ほぼノンストップで読み進めてクリアしました。
凄く面白い海外ドラマを1シーズン一気に見たような気分です。
本作にはゲーム性はない作品なので、プレイヤーへの見せ所はシナリオ・演出・グラフィック・音楽がメインになります。
ノベルに比べて視覚や聴覚に訴えかけてくる割合が多い分、映画を見ているような感覚を覚えました。
実際、選手のバックグラウンドの描き方や見せ方は、映画的手法を参考にしているのではないかと思います。
全体としては、人間ドラマを描いている作品だとは思いますが、バトルを題材にしている作品なので、『バキ』や『終末のワルキューレ』などのバトル作品が好きな人は、入り込みやすいと思います。
現実とは物理法則が違う世界での戦いである以上、バトルにおける強さに必要なのは、何だかよくわからなくても凄そうなハッタリと、それらの納得感だと思います。
多くの強者たちが試合中に解説をしてくれるため、選手たちの凄みを感じ取ることができます。
また、バトルがメインパートではありますが、そこに至るまでの過程やエピソードも存分に見せてくれます。
各試合・各選手ごとに逐一バックグラウンドの説明をするわけではなく、試合ごとにスポットを当てる選手を決め、テーマを設定して描いているように感じられました。
特に作品全体を通したテンポやバランスは、かなり緻密に考えられているような気がします。
「なぜそのチョイス?」と思うようなぶっ飛んだワードセンスによるギャグやセリフは、それらの計算を隠すための照れ隠しのようにさえ感じてしまいます。
試合でのクライマックスシーンでは、僕自身、涙が出てしまったことも一度や二度ではありません。
このように熱い涙を流す作品は、ここしばらくプレイしていなかったと思います。
本作は、懇切丁寧に全ての事柄を事細かく説明してくれている作品ではありません。
知らないキャラや人間関係など、説明されていない設定は多くあります。
だからこそ作品の中の世界に広がりが感じられ、氏の別作品を手に取りたくなってしまうのかもしれません。
VIPRPGに慣れているプレイヤーはもちろん、何となくプレイしていなかった人にも、せひプレイして欲しいと感じる作品です。
感想(ネタバレあり)
本項目は各試合を中心に、印象深かったシーンやセリフなど、感想を気ままに書いています。
何の遠慮もなしにネタバレしたりスクショを載せたりしているのでご注意ください。
本作をプレイする予定のある方は、読まない方が楽しめると思います。
第1試合 ブラックサンダー VS ゴメスの息子
最初の試合ということで、内容としては比較的あっさりしたものでした。
ゴメスの息子も決して弱くはなかったのですが、ブラックサンダーの強さがずっと上を行き、まだまだ余力があることを感じさせる印象でした。
天覧試合の1試合目ということで、まずは導入といった形です。
ブラックサンダーは、スピード、魔法の精密さ、搦め手などすべてが達者ということが印象付けられました。
第2試合 セイントⅡクロ VS カラテカ
「技だけは、今も生きてる」
1試合目の噛ませ犬感が大きいゴメスの息子と違い、互いにバックグラウンドが語られ、どのような思いで試合に出場しているかがわかる試合です。
何でもありの試合ではありますが、空手家同士の対決といった構図です。
かつてのヒーローと老兵の対決という、お互いに人生の重みがある者同士の戦いで、感情移入する場面が多かったです。
勝つことを優先すべき試合で、『いい勝負』を優先させたのは、彼ららしい試合だったと思います。
第3試合 ブライアンパンマン VS ミリィ
古い武器と新しい武器、動と静、そういった対立軸が見える試合でした。
ミリィ視点をメインに描かれていますが、在りし日のブライアンパンマンの背景を語る材料でもありました。
毒タバコを含めすべての攻撃を受けきって勝つというのは、傑物衆としての矜持もあったでしょう。
しかしそれ以上に、ブライアンパンマンが昔の自分と重ねている部分があるため、過去の自分には負けられないという感情があったように思われます。
「君に勝ちたい」という言葉は、過去の自分に負けるわけにはいかないという気持ちと、ミリィに対しての賞賛の両方を表しているのではと感じます。
決着後、ブライアンパンマンが、ミリィの「見せるモンじゃない」影の努力を労ったことで、ミリィも清々しく負けられたのではと思います。
第4試合 アシュリー VS テヌキ
因縁のある同門同士の対決です。
今までの物理攻撃が中心の試合とは打って変わり、魔法主体の戦いです。
これまでの各試合ごとにテイストが全く違い、プレイヤーに常に新鮮な試合を見せようとしている思いが強く感じられます。
試合BGMのボーカル曲(隠れ鬼)が、使役される子どもたちとのイメージと合致しており、独特の雰囲気がありました。
クロVSカラテカの試合のように試合の枠を超えたところでの戦いという形になり、過去作であるゼウスパーク戦争の爪痕を感じさせられました。
優等生的なキャラだと思っていたアシュリーが、強固な意思で自分の戦いを始めたことに驚かされました。
第5試合 ウインディオ VS ブームくん→アグネファイア
一見凡庸に見える者が名セコンドと組んで強敵に勝つ、というそれだけで一本の映画となりそうな構図の試合でした。
作品中の人物の中でも、ウインディオは特に主人公的な印象が強いです。
そう思っていたらやはり、メイキング編でウインディオが表の主人公として描かれていたと知り納得しました。
もともとがツクールDSの勇者なので納得の活躍です。
第6試合 ショウ VS 戦の神
分かりやすい、スピード対パワーの勝負でした。
かませ犬のような雰囲気をまとう戦の神でしたが、さすが神の名を冠するだけあって強敵でした。
過去作の主人公だからといって都合よく勝ち上がれるわけではないのが、この大会のシビアさをよく表しています。
ショウの近くに、死んだはずの友の姿が一瞬見えた演出が好きでした。
また過去作をプレイしたくなりました。
第7試合 アーケン VS メビウス
誇り高い魔族によるプロレススタイルと、徹底的に強みを潰しに来る最悪の兵法家の対決という構図で面白かったです。
見た目通りの不気味なアーケンが、一見奇策とも言える老獪な方法で潰しに来て、計算通り瞬殺で倒すという強さを見せつけました。
何をして来るか分からないアーケンの不気味さが際立つ試合で面白かったです。
第8試合 ダークアリサ VS スプレンディド
「――人間の私など、最初からいなかったのだ……」
かなりの実力者である狂気の剣士と、ブラサンのライバルともいえる稀代の柔道家との対決です。
しかし番狂わせは起きず、鬼のスプレンディドの強さを印象付ける試合となりました。
『威風堂々』の曲に合わせてウェイト調整されたラストシーンは、凶刃キャラの最期として相応しいものでした。
第9試合 ブラックサンダー VS ヒーロー・クロ
試合は2回戦になり、どちらも勝ち上がってきた者同士の戦いになります。
戦闘家と空手家の戦いでクロが不利に思われましたが、ブラックサンダーの漢気または意地により、互いが万全ではない状態(=つまり公平)での戦いとなりました。
ブラックサンダーではなく、はっきりとヒーロー・クロに焦点が合っていた試合だったと思います。
姉とのエピソードをはじめとして色々な思いが溢れる試合であり、カラテカ戦に続いて涙なしには見られませんでした。
「来る、人生が。」と強敵・ブラックサンダーに冷や汗を掻かせるほどの、クロの全てを載せた正拳突きは涙なしには見られない場面でした。
第10試合 ブライアンパンマン VS テヌキ
試合前、負けてもみんなに囲まれているクロと対照的なテヌキが描かれます。
戦う前から負けフラグが立っているような気がしました。
戦いの構図として、近代武器と死霊術の戦いになるかと思われましたが、それ以前に格が違っていたようです。
試合というよりは、傑物衆としての処刑の場と言うほうが正しいのかもしれません。
テヌキに同情する部分もありましたが、死者を冒涜する外法を選んでしまった彼女にとって、因果応報と言える最期と言えるかもしれません。
彼女の中の死霊たちがテヌキへの回復魔法を反射させるという、無言の復讐が恐ろしかったです。
エキシビジョンマッチ アメリア VS ネクロ
突如として組まれた法VS無法のエキシビジョンマッチです。
順当に試合が進んでいくと見せかけて、イレギュラーな試合が発生するという、何が起きるかわからない展開も本作の魅力です。
ネクロは悪の組織の親玉らしく、まだまだ余力がありそうな段階で終了しました。
どんな相手でも、1対多数の戦いに持っていけるネクロマンシーは、使役する死霊が多ければ多いほど非常に厄介だと素直に感じさせられます(『呪術廻戦』の夏油のように)。
第11試合 ウインディオ VS ブリザードⅡ
選手とセコンドとのドラマが前の試合から継続しているという印象です。
楽天カードマンへの風評被害がなかなかひどくて笑いました。
ウインディオの生い立ちに関するエピソードを交えながら、同じく極寒で暮らしてきたブリザードⅡとの戦いが進んでいきます。
自分だけが生き残ってしまったというサバイバーズギルトに苛まされているという点は、『Fate』の衛宮士郎を想い起させて、より主人公らしさが感じられました。
生き残ってしまった自分だからこそ、何かができるはずだ、やらなければいけない、という危うい思考ですが、それが何よりもウインディオの力の根源になっているのだと思います。
盾に書かれた両親からのメッセージが分かるシーンでは、思わず涙してしまいました。
第12試合 アーケン VS スプレンディド
スプレデンディドが勝つだろうとは思いつつも、メビウスを瞬殺した実力者アーケンが、どのように戦ってくるか興味深い試合でした。
試合自体は意外とあっさり終わりましたが、去り際はアーケンらしく不気味でした。
エキシビジョンマッチ スパークⅠ VS サボテン
いつも格上の相手と戦いながら、何とか勝利を拾ってきたスパイチでしたが、今回も何とか勝利できました。
押されながらも何とか勝利できた、「子どもたちの国」でのスターライトⅢ戦を思い出しました。
成長途上の主人公的なポジションであるキャラなだけに、勝つことができてよかったと素直に感じました。
「子どもたちの国」をプレイしているからこそ、ここでようやくケリがついた気がします。
第13試合 ブラックサンダー VS ブライアンパンマン
五冠同士の戦い戦いで、しかも両者策士ということで、一挙動ごとに解説必須のレベルの高い攻防になっています。
周りの解説が挟まれるので、ややテンポは損なわれますが、それだけ解説が必要なレベルの高い攻防ということが印象付けられます。
ブライアンパンマンのバックボーンが詳しく描写され、兄との不仲の理由について描かれていました。
必要でないものでは昇れない、切り詰めて鋭くする他ない、強くなるために失う……あのような体になった理由が、まさか自分自身によるものだったとは驚きでした。
最後は、全力を出せる喜びにあふれていたように感じられました。
「(神に捧げようではないか。曝け出し合おう、私たちの―――くだらない人生の渦を)」
同じ高みに上がってきたブラックサンダーに感謝しつつ、どこか自嘲的に響きが感じられる心の声が印象に残りました。
第14試合 ウインディオ VS スプレデンディド
選手とセコンドとのドラマの最終ラウンドです。
これまで同様、自分の命を削るような戦いをし続けるウインディオの戦いに胸を揺さぶられました。
「死ぬことは……覚悟しなきゃいけないよね。」「いつものことだよ」と、これまでも、生き残ってしまった者としての呪縛に囚われ続けていたことが感じられます。
予想通りスプレンディドが勝ちましたが、ウインディオとキャンセルは、負けて何かを手に入れたのは間違いないでしょう。
BGMとして流れている『おぼくり~ええうみ』という歌は、ノスタルジアを感じさせるもので、今はなき故郷を想うウインディオのイメージと合っていると思いました。
第15試合 ブラックサンダー VS スプレデンディド
長いバトル作品、堂々の決勝戦でした。
ライバル同士の戦いを真正面から描き切ったというやり切った感があります。
お互いに高度な技を出し合いながら、ギャラリーの細かい解説が盛りだくさんでした。
戦いというよりはむしろ、恋人たちのイチャつきのように感じました(メイキングで作者もそのように書いていたので、やっぱりそうだったのかと納得しました)。
どちらが勝ってもおかしくない試合を制したのは、ほんのわずかな内面の差だったのでしょう。
しかしアレックスが言うように、そのわずかなものが決定的な差となってしまうのがこのレベルの戦いなのだと思います。
決着がついてしまった二人ですが、今後スプレデンディドがどのように生きていくのか、そしてブラックサンダーが行きつく果てに何があるのか、今後も見届けたいと思っています。
我々もまた、365日戦う生き物なのですから。
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