レトロ調のグラフィックとBGMが特徴的なノベルゲーム「かいきみなづき」を紹介する記事です。
前作「はざまたそがれ」をプレイして、とても面白かったので本作もプレイしました。
途中まで公開されていましたが、完成版が公開されるまでプレイを我慢して、今回一気に読み進めました。
前作「はざまたそがれ」とは独立した作品なので、前作を読んでいなくても全く問題はありません。
クリア時間は約7時間でした。
ゲーム概要
とある中学校に個性的なメンバーが集まる「超常現象研究部」という部活がありました。
商店街で時折目撃される謎の老婆の調査依頼があったことから、一同は部活動として老婆の調査を始めます。
遅い時間帯に商店街で活動していることを学校から咎められ、調査の進展も全くないことから調査を断念しようとする研究部でした。
しかしそんな中、調査の続行申し出たのは意外にも、さほど乗り気には見えなかった1年の水無月玲子でした。
彼女が調査の続行を希望する理由とは一体何なのか、そしてこの件はどのような結末を迎えるのか、というのが本作の導入です。
本作は、5分~15分程度の長さの1話で細かく区切られています。
全部で20話+αとなっています。
毎話良いところで終わるため、ついつい先が気になって読み進めてしまう作りになっています。
冒頭部分にその話のタイトルが表示され、終了時にはそのタイトルに対応した下の句が表示されます。
前作同様、本文中には徹底してカタカナは使われていません。
また、普段はひらがなで書くことが多い言葉を、あえて漢字で表記することによって本作のレトロチックな雰囲気を一層深く作り上げています。
読みにくい漢字は画面内の「辞書」ボタンを押すことで、読みを調べることができます。
耳にしたことがある言葉でも、漢字表記となると知らないことも多く勉強になります。
また、メッセージウィンドウ内で文字が飛び跳ねたりする演出は本作でも健在で、単調になりがちなノベルゲームに視覚的な面白さで味付けをしています。
前作に比べるとやや少ない気もしますが、目にした時のインパクトは大きいと思います。
感想(ネタバレ無し)
まずネタバレ無しの感想を書いていこうと思います。
数日かけてじっくりと読んでいこうと思っていたのですが、2日間で一気に読んでしまいました。
僕は長いノベルゲームだと1~2時間で読み疲れて切り上げることが多いのですが、なぜかするすると読み進めてしまう魔力があります。
その理由の一つは、1話単位に話を短く区切ってメリハリがある作りになっているからでしょう。
一つの話題がずっと続くのではなく、ダレてしまう手前で話が展開していくというテンポ良さが根本にあるのだと思います。
本作では、文字表示速度は一定で変更することはできません。
僕は多くのゲームで文字表示速度は最大にしてパッと読み進めてしまうのですが、本作ではそれができません。
デフォルトのややゆっくりとした表示速度に制限されてしまうのですが、その分文章をじっくり読んでしまいます。
文字表示速度はゆっくりなのですが、実は物語内容の展開がスムーズなので、全体としてバランスが取れており、いつの間にか作品のペースに巻き込まれているような印象を受けます。
僕はせっかちな性格なのですが、この文字速度でストレスなく読み進められるというのは、自分でも不思議なものだと思います。
物語の内容については、超常的な現象が起きるホラーとなっています。
しかし本作の本質は恐怖小説の類ではなく、どこかノスタルジーを感じさせる青春ドラマだったと思います。
時折挿入される唐突なギャグや各キャラの顔芸は、本作の雰囲気をぶち壊しにしそうなのに、作品のスパイスとして成立している不思議なバランスを保っています。
上手く言語化できないのですが、前作「はざまたそがれ」でも同じ味わいがあったため、これが作者様の持ち味なのだと思います。
前作でも完成されていたこのレトロホラーノベルの形式ですが、本作で完全に確立したと言えるのではないでしょうか。
今後の作品も注目していきたいと思っています。
感想(ネタバレ有り)
この先は本作のネタバレ要素を含んだ感想となっています。
本編未クリアの方はご注意ください。
ショッキングな画像が表示されるかもしれません。
水無月渾身の叫び声と共に、ネタバレ有りの感想を語らせていただきます。
前作に引き続き、本作「かいきみなづき」を楽しませていただきました。
前作はレトロ調な雰囲気とはギャップのあるSF的世界観が印象的でしたが、本作はどちらかと言えばゲーム全体の雰囲気によく馴染んだ題材だったと思います。
意外性のある仕掛けやサプライズといった要素は多くありませんが、だからこそ逆に誤魔化しが効かない土俵での創作で大変だったのではないかと思います。
儀式を行うための材料集めが比較的あっさり終わったのは、もっと長いエピソードを削ったのではないかと推測します。
シナリオのバランスやテンポを重視した結果、色々な部分を削って現在の形になったのではと勝手に思っています。
「本作で最も良かった点は?」と聞かれると、僕には「これだ!」と一つだけを答えることができません。
レビューする人間として良くないとは思いながらも、全体的に良かったという言い方になってしまいます。
何が良いのか明確に言えないけれども、なぜかどんどん読み進めてしまうということは、他では真似できない魅力があるということなのだと思います。
ストーリー内容については、水無月一人での孤独な戦いから始まり、最後は仲間たちと力を合わせて戦う流れになり、王道の作りで安心しながら読んでいけました。
倒したと思った形代が復活した際も、最後は何とかなるのだと信じることができました。
偽りの夢の中で落合だけ存在していないような描写がされたので、「ひょっとして落合は最初から幽霊で、ずっと水無月だけにしか見えていなかったのでは?霊力カウンターも振り切れていたし・・・」とか妄想を巡らせていました。
でも思いっきり他の部員とやり取りしていますし、その線は無いかと思い直しました。
「幽霊だからこそ、今この場に居なくてもすぐに呼び寄せて霊力補充できるのでは」という推測はハズレましたが、結果としては当たらずとも遠からずな手段でした。
仲間が誰一人欠けていても最良の結果が得られなかったという点で、とても良かったです。
妖奇たちは、みんな独特の雰囲気を持っており存在感がありました。
友好的な妖奇もいれば害をなす妖奇もおり、そのどちらでもない妖奇も多いというのは人間も一緒だなと感じました。
水無月を追いかけ回した妖奇の河坊は印象深く、後から辞典を確認したら怖すぎる能力でゾッとしました。
しかも「有効な対処法は存在しない。」というのが殊更恐ろしいところです。
一日童子とのかくれんぼ1万カウント放置プレイが無ければ詰んでいたのかもしれません。
狙っていたわけではないでしょうが、運が良かったと思います。
他の妖奇では、爪引鬼や福鼠が可愛らしくて良いなと思います。
特に爪引鬼は、最後に並んで手を振っている様子が何とも言えません。
福鼠は本編に続いて番外編でも活躍しており、影のMVPと言える妖奇だったのではないかと思います。
個人的に一番好きなキャラクターは、水無月玲子です。
本編では幸薄い健気な主人公として物語を牽引し、エピローグ以降ではコメディ要員としての才能を発揮します。
本編でも中盤以降せっかちな性格が見られましたが、エピローグではさらにせっかちな性格が露わになっており、乾原とのやり取りは思わず笑ってしまいました。
顔芸もなかなかのクオリティです。
ショートカットにして本来の性格を取り戻した後は、落合のように小動物系の後輩キャラに生まれ変わっており同一人物には見えません。
元々明るい性格だったというのがよくわかります。
水無月以外の部活メンバーも魅力的です。
秋山は少し暑苦しい所がありますが、何だかんだで頼りになる部長キャラでした。
困ったところはありますが、憎めない良い人です。
乾原は偏屈であまのじゃくなカイ・シデンのようなイメージですが、最後には助けてくれる人物でした。
このタイプのキャラが主人公とくっつくパターンはあまり見ないので珍しいなと思いました。
肌勢はスケバンのようなはすっぱな喋り方をするなと思っていましたが、やはりそちら方面の人物だったので、違和感はありませんでした。
本作の登場人物はみんな中学生にしては大人びていますが、肌勢は特に大人に感じられました。
落合は登場機会が控えめで影が薄かった気がしますが、そうでもないと存在感があり過ぎるので、ちょうど良かったのかもしれません。
レトロで郷愁を感じさせる雰囲気ながら、面白さは古臭くない不思議な作品でした。
まだ「はざまたそがれ」をプレイしていない人は、ぜひそちらもお薦めしたいと思います。
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コメント
毎度お世話になっております。ことぐです。
前作に続きプレイ、及びご感想を頂き有難うございます!
楽しめて頂けたのなら何よりです!
一応、本編では語られなかった裏設定として、
水無月玲子が乾原一茶に惹かれた理由の一つとして、自分を正直に表に出せない類似性というのがありました。
確かにこのタイプが主人公とくっつくのはあまりないのかもしれませんね。
そもそもホラーでは真っ先に殺されるようなタイプですし(笑)
またいつか、自分の作品をプレイされる機会があった時にも楽しんで頂ければなと思います。
次回はノベルではないかもしれませんが・・・。
それでは、ありがとうございました!
コメントありがとうございます。
今回も楽しく読ませていただきました!
確かに二人とも正直になれないタイプで似た者同士ですね。
玲子はおんぶされたり最終決戦で助け合ったりと好感度が上がるイベントが多いので、
一茶に惹かれていくのは納得です。
一茶は癖があって熱いというのが良い味を出していて好きだなと思います。
また次回作を出されるようでしたら、引き続き追わせていただきます。
楽しい作品をありがとうございました。