医療機器商社(ディーラー)の仕事 心臓外科編

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以前、別の記事では医療機器商社(ディーラー)について、仕事内容を中心に説明しました。

今回は、心臓外科分野の手術に関する仕事内容について書いてみようと思います。

心臓外科分野は、専門ディーラーが現場を押さえていることが多いですが、そうでない病院もあります。

今回は、「こういう手術のときはこういうものが必要になってくる」ということを、ディーラーの目線から大まかに書いていきます。

各疾病の内容や手術手技そのものについては、病院が解説しているページがネット上にたくさんありますので、そちらをご覧ください。

 


 

 

 

大動脈弁置換術(AVR)

心臓外科手術で、最もポピュラーな手術のひとつと言ってよいのではないでしょうか。
その名の通り、大動脈弁を人工弁に置き換える手術です。

人工弁は1つ80万円ほど(2018年現在)するので、ディーラーにとっては、売り上げが大きい手術と言えるでしょう。

ディーラーが気にすべきことは、生体弁を使うのか機械弁を使うのかという点です。
ガイドラインでは65歳以上は生体弁、それ以下では機械弁ということになっています。

実際はその他の要因も含め、ドクターが総合的に判断して決めます。
依頼を頂いたら、どちらを使用する予定なのか確認する必要があるでしょう。

また、どのサイズの弁を入れるか計測するサイザーの滅菌も必要になるので、忘れずに注意が必要です。

生体弁は温度管理品でもあるため、冬場・夏場は、メーカー指定の保冷ボックスに入れて、しっかり管理なければいけません。
メーカーが言うには、高温ならまだ何とかなるそうですが、0度以下の低温については、グルタルアルデヒド溶液が凍結してしまうそうです。
そうなると溶液中の生体弁も変質し、耐久性にも影響を及ぼす可能性があるので、大変危険です。

運送便での送りは、細心の注意を払う必要があります。

 

 

 

僧帽弁置換術・形成術(MVR・MVP)

近年、僧帽弁置換術は稀で、ほとんどが弁形成するだけに留まっています。
弁置換の場合は、AVRと同じく生体弁か機械弁の選択に注意が必要です。
感染による心内膜炎などの緊急OPでは、弁置換となることが多いと思われます。

弁形成の場合は、人工弁輪と呼ばれるリング、または「C」の形状をしたバンドなどを使用し、弁形成を行います。

人工弁輪の価格としては、30万ほどでしょうか。
各メーカーそれぞれ、固いか柔らかいか、リングかバンドかなど、色々と種類があります。
これもサイザーが必要なので、注意が必要です。

 

 

 

三尖弁形成術(TAP)

この手術は、単独ではほとんど行われず、MVPやAVRと同時に行われることが多いです。
というのは、閉鎖不全が軽症の段階ではほとんど症状がないためです。

重症化する頃には、他の弁も悪くなっていることが多いので、MVP、AVRをするときに、ついでにやっておくパターンが多いように感じます。

こちらも、僧帽弁用リングほどは種類はありませんが、人工弁輪と置き換えます。

 

 

 

弓部大動脈人工血管置換術

手術時間も長く、一般的には「大手術」と言って差し支えないでしょう。
弓部を全部置き換える手術だと「トータルアーチ」と呼んだりもします。
4つに枝別れしている、その部位専用の人工血管を使用します。

また弓部そのものではなく、前後の上行大動脈、下行大動脈を置換する症例もあります。
その際には、4分岐ではなく1分岐の人工血管であったり、ストレートの人工血管、またオープンステントフラフトを使用したりします。

胸部大動脈瘤であれば予定症例のものが多いですが、解離性大動脈瘤(スタンフォードA型)であれば、緊急症例となります。

そのため、弓部周りの人工血管は休み中であっても、絶対に在庫を切らさないようにしたいところです。

 

腹部大動脈人工血管置換術(AAA)

心臓外科が行わない病院も多いです。

最近では、ステントグラフトが一般的になってきたせいか、オープンでのAAAは減ってきたように感じます。

Y字の人工血管を使用します。
緊急性は高いので、こちらも在庫は切らさないようにしたいです。

 

 

 

ベントール手術

イメージとしては、AVR+上行大動脈置換術です。
しかし特徴的なのは、人工血管に大動脈弁を縫いつけた弁付きグラフトを使用する点でしょう。

最初から弁とグラフトが一体化している商品もありますが、それは機械弁のタイプしかありません(2018年5月現在)。

生体弁を使用してベントールを行うのなら、生体弁に加え、大動脈基部であるバルサルバ洞の形状を有した人工血管が必要となります。

ベントールの症例数が少ない病院であるのなら、弁と人工血管の各メーカーの組み合わせについて、サイズ適合を示した資料も必要になってくるかもしれません。

 

 

 

Maze手術

心房細動に対して行う外科的手術です。

近年ではカテーテル治療で行えるようになってきたため、外科的手術として単独で行うことは無くなってきています。

焼灼するための本体と、実際に使用する消耗品のデバイスが必要です。
緊急で行うものではないので、事前に準備できる猶予はあると思います。
また、近年では低温で壊死させる方式によるMazeデバイスも出て来ました。

何にせよディーラーにとっては、そこまで恐れる手術ではないと思います。

 

 

冠動脈バイパス術(CABG)

緊急で入ることも多いですが、近年ではOPCAB(後述)が増えてきたため、単独で行われることは減りつつあるような気がします。

弁膜症の症例と同時に実施されることもあります。
ディーラーがこの症例のためにわざわざ物を用意することはほぼないでしょう。
 

 

OPCAB

オフポンプで行われるCABGです。
人工心肺回路を回さないですが、拍動を抑えるための専用デバイスなどが必要になってきます。

拍動を抑えるためのスタビライザー、手術しやすいように心臓を動かすポジショナーの2種類が必須となります。
CABGよりは、ディーラーにとっての売上額は多い手術です。
 

 

 

まとめ

心臓外科の手術は、主に弁膜症・人工血管周囲の手術がほとんどです。
手配のパターンはそれほど複雑ではないので、覚えてしまいましょう。

弁の手術なら、どの弁か、置換か形成か、生体弁か機械弁か。
大血管の手術なら、どこの血管なのか。

その辺りさえ抑えれば大半は大丈夫でしょう。

しかし先天的な疾患による手術も多いのが心臓外科の特徴です。

特殊な手術の際は、ドクター・メーカーと共に打ち合わせをすることが大事です。

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