漫画「少年Y」(原作:ハジメ、作画:とうじたつや)全8巻 紹介・感想

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僕の印象として、原作者がいる漫画は総じて面白い作品が多いと感じます。
やはりストーリーに専念できる分、質が上がるのでしょうか。
今回の漫画「少年Y」も、原作者が存在しており、とても面白いと感じた作品です。
デスゲームというか、知恵比べ的な要素が多くある作品ですが、そこが作品のメインテーマとなっているわけではない作品だと思います。
全8巻と、ちょうどよいくらいの長さです。

紹介

新しい学校へ転校した栗原ユズルは、転校初日、教室で教師とクラスメートが全員死んでいる場面に遭遇します。
そこでユズルの電話に「神」と自称する者から電話があり、一人だけ生き返らせる人物を選択しろと強要されます。

「少年Y」は、このようなストーリーから始まります。
ユズルはこの後も、「命の選択」とも呼ぶべき決断を強いられ続けていきます。
もう一人の主要人物である山崎匡(やまざきたすく)も、色々なゲームを仕掛けられながらも切り抜けていきます。
ただし、物語の中心はあくまでユズルに仕掛けられる「選択ゲーム」であり、その選択問題は、読者に対しても問うているように感じます。
「ハーバード白熱教室」のサンデル教授で有名になった「トロッコ問題」など、功利主義と道徳が対立し合う内容が多いです。
本作の見所は、ユズルと匡がどのようなロジックで選択をするのか、という点にあると感じます。

また、伏線の張り方が綿密かつ周到で、ストーリーの序盤から張られた伏線が、最後の最後に大きな意味を持つということもあります。

かなり練られているストーリーも魅力の一つと言えるでしょう。

 

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長文感想(ネタバレあり)

デスゲーム的な知恵比べを期待して読み始めましたが、かなり哲学的な色が濃い作品でした。
とはいえ、軽くない話題を知恵比べゲームのように味付けて料理されているのは新鮮で、とても面白かったです。

以下の文にはネタバレがあり、物語の展開や内容について言及しているのでご注意ください。

本作では、一貫してユズルに「命の選択」を迫ります。
ところが、ユズルは真っ向から選択することを避け、課された選択を謎解きゲームのように解答し、上手く逃げてしまいます。
僕らは普段、ユズルのように過酷な選択を強いられる場面は少ないですが、そういう場面に遭遇したとき、どういう選択をするのだろうと考えさせられます。
ユズルのように、自らの主観を重視して選択する考え方もあれば、匡のように、客観的に判断するということもあると思います。
しかしどちらにせよ、選択を先送りにしたり誤魔化すのではなく、自分の立場をちゃんと決めておけ、という作者のメッセージを感じました。
選択することで、誰かから恨まれるかもしれないといって、選択から逃げてはいけないのだろうと思います。

「少年Y」の「Y」は、ユズルと山崎のYを意味していますが、二つの道から片方を選ぶという意味だという描写もありました。
「匡」という漢字は、「ゆがんだものを元の形に戻す、直す」という意味があり、実際、作中でも冷静さを発揮し、そういう道を選択していました。
では「ユズル」に漢字を充てるとしたら何になるのだろうかと考えたとき、おそらく「譲」になるのかなと僕は思いました。
「譲」には、「自己の権利を他人にあたえる」という意味があります。
おそらく、自分の選択権を他の何かに譲り、選択から逃げているという意味を含んでいると考えられます。

しかし「譲」には、自分の何かを差し出すという意味もあり、悪い意味ばかりではありません。
大した内容ではないですが、こういった部分にもストーリーを暗示するヒントが隠されており、面白いなと思います。
(僕の勝手な妄想かもしれませんが・・・)
以下は、各場面についての感想を書いていきます。

・教室での選択
カバンが消えていた点から、自分も含まれていたという盲点が面白かったです。
自分が含まれているため、命の選択としては選びやすい問題だと感じました。

・トロッコ問題の亜種
救う人数が変わらないため、本家の問題とは少し異なります。
しかし、選択せず傍観者でいるか、スイッチを切り替えて少しでも好きな人を助けるか、どちらを選ぶか難しいところです。

・トリアージ
少し挿入されるだけのエピソードですが、現実に行われている出来事です。
命の選択をするということは、精神的負担だということが描写されています。

・救う人間を記入するゲーム
普通の作品なら、うまく切り抜けられたと喜ぶシーンですが、本作では逆に怒られるという特徴的な場面です。
やっていることはただの選択の先延ばしであり、命の選択をゲームとして扱っていることにワビコが怒るのも仕方ないと言えるでしょう。

・ゴミ埋め立て地の選択
これこそがトロッコ問題に最も近い選択かもしれません。
ある意味、物語のクライマックスと言っても良い壮絶なシーンだと思います。
結果的に選択は果たされませんでしたが、ユズルはしっかり決断していますし、これは一つの完結だと言っても良いと思います。

・交渉ゲーム
匡が行う、箸休め的なゲームです。
このパートは命の選択ではなく、本当の意味でゲームに近いため、ある意味ライトに読むことができました。

・執行猶予ゲーム
首のところの「切り取り線」というデザインは、何だか秀逸な感じがしました。
倒し方がいまいちしっくりこなかったゲームでした。

・クロスワードパズル
明らかに匡のメガネが消えているのに、読んでいる自分自身、言われるまで気にしていなかったことに驚きました。

「マスメ」は覚えていないと詰むので、匡の超人っぷりが発揮されます。
黒瀬はかなり好きなキャラクターです。

・キメラハントゲーム
急に肉体系のゲームになり、逆に新鮮でした。
黒瀬さんのペイズリー柄嫌いが面白かったです。
しかし黒瀬は、この後出番がないのが寂しいところです。

・飢ェー飢ェーガム
実際に遭った事件の、極限的状況での人肉食が題材にされたエピソードなのかなと思います。
ただ、あまり対戦という感じはなく、解決手段もご都合主義でしたので、あまり面白くありませんでした。
しばらくは騙し合いを楽しむ内容ではなく、辛さの描写を楽しむ内容になっていきます。

・落石ジェンガ
痛いの最大級が「WHY?」というのが印象に残ったエピソードです。
ヨブ記と絡めていて、なるほどと思いました。
ただしクリア方法が完全にご都合主義なので、ゲームとしては「NO」でした。

・角獣激突ゲーム
父と母と子について、何だか考えさせられるものがあるゲームでした。
しばらく表面に出てこなかった「命の選択」が、ようやく顔を出してきた話です。
家畜や動物についての命について、選択を迫ります。

・ドレミファバナナ
ゴリラが学校内を歩いている姿はシュールですが、ゴリラがめっちゃ怖いです。
匡の「太陽より大きいものをな」の決めセリフのシーンは、久々にかっこよかったです。
ただ、どんどん丸いもののお題が大きくなっていくかどうかはわからなかったので、これも少しご都合主義的だと感じました。
しかし、太陽を反射させて入れるという発想はかなり好きでした。

・崖っぷちの風船大好きっ子
少年漫画らしい、良い決着でした。
柚希はマスコット的な存在だけかと思いきや、かなり重要な人物になるので意外でした。
ただし、背が小さ過ぎるのが気になります。

・最後の選択
最後の最後で意外な伏線があり、かなり驚きました。
ゲーム「車輪の国、向日葵の少女」の逆とでも言うのでしょうか、面白かったです。
ユズルも、他人に選択権を譲ってしまうキャラから、自分の存在を譲る決断を見せたので、成長したのだと感じられました。
久美子の「信じるべき現実を選び取りなさい」という言葉は、なかなか刺さる言葉です。

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