医療機関が卸業者に価格交渉をする際、「価格ベンチマーク」が利用されることが多くなってきました。
ベンチマークという言葉の意味自体は、「基準」や「水準」という意味です。
価格交渉の際に使用されるベンチマークとは、すなわち他の病院でどれくらいの価格で卸されているかという価格水準ということになります。
今回は、こういったベンチマークを利用した価格交渉のメリットや問題点について、考えてみようと思います。
ベンチマークを利用した価格交渉
医療機関が購入する医療機器は高額であるため、病院経営を圧迫する原因になっています。
近年、その医療機器の購入価格を抑えるため、病院がコンサルタントと契約を結び、卸業者に納入価格を下げさせる動きが強まっています。
コンサルは、自社で集めた価格データベースを持っており、そのデータに基いて価格交渉を行ってきます。
例えば、現在Aという商品は1000円で納入されているが、別の病院では900円で納入されているため、その価格で納入しろという交渉です。
もちろん、その別の病院と比べて、購入数量が同等であることが前提での交渉です。
1年間で1個しか購入していない病院と、100個購入している病院とでは、当然納入価も変わってくるでしょう。
また、その別の病院の納入業者と同じ業者であることも、普通は前提になってきます。
そうでなければ、別の病院で本当にその納入価なのかどうか確かめようがないからです。
(つまり、本当は別の病院で1200円で入っているのに、『あっちでは900円で入っている』と嘘をついて価格を叩く)
ベンチマークを利用した標準的な価格交渉は、このような方法・論理によってなされることが多いです。
卸業者側の対応
こういった病院からの交渉に対して、メーカー側がすんなり価格を下げてくれるのなら、一応は要望に応えられます。
ただしメーカーも当然ながら、担当営業が違うことや、その地域での状況などを理由に、安易に価格を合わせることを渋る傾向があります。
そういった場合ディーラーとしては、利益を削って価格を下げるか、納入業者を変えられる恐怖に怯えなければいけません。
納入業者を変えるというのは、病院側にとっては一番大きな権利の行使であり、大義名分が無ければ使いづらい行為です。
(頻繁に使う病院もありますが・・・)
しかし病院側も、「別の病院で安く売っているのに、こちらでは安くしてくれない」という大義名分があれば、いとも簡単に納入業者を変更してくるようになっていきます。
このような状況になると業者側は価格を下げるか、さもなければ別の業者から購入されるのどちらかしか選べません。
多くの場合、売り上げがゼロになるよりはマシな、価格を下げるという選択をするのではないでしょうか。
価格交渉による悪循環
こうしたベンチマーク交渉によって、どうせ利幅が減らされるのであれば、新たな商品を提案してもうまみは少ないです。
そうなっていくと、担当営業も新たな製品を紹介する意欲が無くなっていきます。
「それでもウチは対応していく」というディーラーもいるかもしれません。
しかし慢性的に人員不足であるこの業界で、利益を下げて売上額を増やしていくのは、自らの仕事量も増やすことにもつながる自殺行為です。
やる気のある担当者なら可能かもしれませんが、そういう担当者ばかりとは限りません。
行き着く先は、体力のある企業だけが生き残る寡占市場ではないでしょうか。
過疎地や田舎の医療機関では、そもそもの納入業者が少ないこともあり、そういった価格交渉をしても断る業者が多いようです。
競争相手がいない強みということでしょうか。
商品の納入価格
納入価格というのは、その病院と業者の歴史そのものです。
別の病院の納入価を引っ張ってきて、この価格にしろという交渉には抵抗のある業者も多いです。
それゆえに、価格交渉への対応に関する仕事は、自らの利益にはならないのに時間が割かれるという、非常に精神を削られる作業です。
ただし、医療費を何とか削減しなければいけない状況で、医療材料費は標的になりやすい項目です。
薬に比べて医療機器の価格が下がらないのは、卸業者が負担する預託在庫によるコスト、適正使用支援によるコスト、緊急対応による人件費などが主な理由とされています。
こういったコストが正しく理解されなければ、卸業者と医療機関の関係は悪化していくのではないかと感じます。
単に納入するだけでよく、緊急対応や適正使用支援を一切しないのであれば、まだ価格を下げられる余地はあるのかもしれませんが。
今後の展望
昨今、系列病院などによる材料の共同購入の動きが進んでおり、価格の統一化という方向に世の中が動いています。
価格がだんだんと統一されていくのは、情報を有効活用していく世の中の流れなので、避けられない流れでしょう。
しかし共同購入を行う組織へ、メーカーが低価格な製品の採用提案をするという利用の仕方もあります。
その組織に所属している病院で、自社製品が全面採用になるというメリットがあれば、共存していくことも可能ではないかと思います。
アメリカのようにGPO(共同購買組織)が発達している国で、医師の好みが強く反映される製品は、GPOを通さないことが多いため、共同購入による削減額は少なめです。
しかし汎用消耗品であれば多くがGPOを経由し、統一された安い価格で納入され、削減額も大きいそうです。
日本においても同様の取り組みをしていけば、メーカー・卸業者と共同購買組織を敵対関係に位置づけてしまうのではなく、共存関係を作っていくことが可能だろうと思います。
卸業者としては、自分たちへの攻撃だと感じかねない状況ですが、前向きに利用していく手段も考えていきたいところです。
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