異説precious~まなざし~(フリー・読むゲ)紹介・感想

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「VIPRPG紅白2022」で公開された、キチガイ地獄外道祭文氏による読むゲ『異説precious~まなざし~』の紹介記事です。
以前、人気を博して色々なリメイク作品が登場している『PRECIOUS~護るべきモノ~』を原作として、宮沢賢治作品のエッセンスを加えながら大胆に描いている作品です。
緊迫感のある戦闘描写が特徴的で、正統派の異世界モノとは一味違う雰囲気が特徴です。

クリア時間は約1時間半でした。

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VIPRPG紅白2022(作品番号6)

ゲーム概要(ネタバレ無し)

気が付くと、銀河を駆ける鉄道に乗っていた青年は、怪しげな女によって異世界へと移動させられます。
森をさまよっていたところに悲鳴が聞こえ、成り行きで助けた女性に魔王城へと招待されることになります。
刀そのものであるような青年は、魔王城の人々との関りや敵との戦いを通して、何を感じ取っていくのでしょうか。

基本は、画面下のウィンドウの文章を読んでいくことで物語を進めていきます。
いわゆるノベルゲームのようなものと考えて差し支えありません。

青年と他の登場人物による戦闘は、地の文で緊迫感をもって書かれます。
主人公の青年の口数が少ないということもあって地の文はやや多めで、文体としてはやや堅めということになります。
唐突なギャグ描写もありますが、メインはシリアスな雰囲気の作品です。

チャプターごとに、宮沢賢治作品のタイトルが冠されています。
タイトルの「ありがとう」はデータロードなので、初めから保存されている各チャプターの冒頭から読むことができます。

一方、プレイ中に現れるこの画面はセーブ画面なので、進行状況をセーブしておきたいのなら、下の方の空いているところにセーブしましょう。
もっとも、全てのタイミングでのセーブデータは初めから揃っているわけなので、セーブする必要は特にありません。

感想(ネタバレ有り)

最後までプレイして、驚きと共に何とも言えない気持ちになり楽しかったです。
ネタバレ有りの感想を書いていくので、プレイする予定がある人はご注意ください。

僕はもともとVIPRPGに触れてこなかったので、プレシャス原作も知りませんでした。
しかし以前、たんち氏による『PRECIOUS -なぜショウは神に挑んだのか-』をプレイしたことにより、原作『PRECIOUS~護るべきモノ~』(以下、原作)が気になり、本作をプレイしました。
プレシャス作品に多く触れているプレイヤーほど騙され、驚きへつながるのではないかと思います。

原作は、オーソドックスな異世界モノでした。
初出が2007年ということもあり、古臭さはあるものの起承転結などのテンポが良い作品でした。
なぜ原作がこんなに人気を博したのか、当時の空気感はわかりません。
しかし推察するに、原作は良い意味でテンプレート的な展開で改変がしやすく、WEB上のネタ投稿が多くのユーザーに改変されていくように、多数のリメイク作品誕生につながったのだと思います。
また、独特のクサいセリフなどが憎めない面白さを醸し出しているのも、愛される一因だと思います。

『異説precious~まなざし~』(以下、本作)をプレイしてみようと思ったきっかけは、2点あります。
以前、プレシャス作品に触れているということと、作者のキチガイ地獄外道祭文氏が気になったからです。

キチガイ地獄外道祭文氏は名前のインパクトで覚えていたのですが、たんち氏の作品でバトル演出をされていたという記憶がありました。
つまり、作者がキチガイ地獄外道祭文氏だということは、バトルの描写は凄いものになりそうだという期待感がありました。
そして、その期待は間違っていませんでした。

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』については、昔読んだ記憶がうっすらあるだけで、鮮明には覚えていません。
しかし宮沢作品の少し曖昧で独特な文体と、幻想的な印象は何となく思い出しました。
本作ではたびたび、主人公の青年が『銀河鉄道の夜』から引用して喋ります。
青年が引用して話すときだけ、作品の文章力のせいか人間味があるように見えます。
青年がこの本を持ち続けている理由は明確ではありませんが、僕は母親が買ってくれたものなのだろうと思っています。
ただ、だからといって大切に思っているわけではなく、最後のシーンでも盾になって役立ったくらいにしか思っていなさそうなのが怖いところです。

本作で特に面白いと感じたのは、原作を知っているからこそ引っかかる裏切りの構造です。
原作を知っているプレイヤーからすると、やけにハードボイルドでクールなショウさんだな、と思いながら読み進めていくことでしょう。
魔王城の人々と交流しても、仲良くなるというよりは、青年が異質な生き物だと際立つエピソードが多いです。
人の良いキャラクターであれば、青年の振舞いを勝手に好意的に解釈し、好ましく思うのでしょう。
ニンニンは性格からか、青年がどんな人間なのかを注意深く観察しており、そのため青年に対するネガティブな感情がどんどん蓄積されていきます。
青年自身の考えを本音で話しているからこそ、ニンニンの中での嫌悪感が増してしまうのでしょう。

逆に、青年自身の言葉で話していない(と思われる)ムシャとの会話では、表面上はコミュニケーションを取れているように見えます。
しかし実際は、青年が話している「一月は一切の水に現じ 一切の水月は一月に摂す」「あそびをせんとや、生まれけん」という言葉はすべて書物からの引用であり、青年自身の言葉ではありません。
引用をしている=本心を話していない、と解釈すれば面白い見方が出来るのではないでしょうか。

何やかんやありつつ、最終的には青年が人間味のある感情を獲得していくハートフルストーリーなんだろうなと思っていると、最後はショウではないことが明かされ、プレイヤーを愕然とさせます。
「異説」という看板が付いているだけの理由があり、原作とは本質的に異なる作品です。

最終的には、大団円とは真逆の展開となり、ダークな終わり方でした。
強さを求めた修羅でもなく、残酷な悪人というわけでもなく、「何もない」という在り方が不気味な主人公でした。
何も無いからこそ、今までに読んだ文章の引用が口に出てくるのだと感じられました。

上のスクショのシーンは、何も知らないと感動的で幻想的な美しいシーンに見えるのが好きです。
ほかに記憶に残っているシーンとしては、荒くれ者の中で一番過激な言動のノビタニアン(るろ剣で弥彦が使用していた逃走戦法を使う)、偽幕田が使った『ワールドトリガー』のワイヤートリック、ムシャとの最期の戦いなどが印象的でした。

心を通わせているように一方が思っていても、もう一方は全く何とも思っていないというのは悲しいものです。

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